北國FHD社員組合×日清製粉労働組合

これからの労働組合のかたちを模索する
変わりゆく「地方銀行」としての在り方
- 松本:
- 本日はよろしくお願いいたします。私と西村が、本多さんと研修会でご一緒したところから始まったご縁ですが、当労組の組合員には、食品業界外の会社はなじみがないところもあります。恐れ入りますが、まず、北國フィナンシャルホールディングス(以下、北國FHD)とはどんな会社なのか、ご説明いただいてから始めてもよいでしょうか。
- 野崎:
- はい。私たちは、石川県に本社を置く地方銀行の北國銀行を母体に、2021年10月にホールディングス化して、11のグループ会社から成り立っているグループになります。社員は約2,000人ですが、翌年の2022年に社員全員が一度北國銀行を退職して、北國FHDへ転籍し、グループ会社に出向しているという形です。銀行以外にもコンサルティング業務や、投資業務をはじめ様々な観点でお客様をサポートできるような体制をとっています。事業領域の拡大に伴って、社員が担う業務も多岐にわたっています。
- 松本:
- ありがとうございます。銀行業界は、たとえば窓口の一般職社員の採用がなくなって配置転換されたり、銀行の統合もあるなど、メガバンク、地銀問わずすごくいろんなことが変わってきている業界ですよね。現場の実感としてはどのように変化をとらえられていますか?
- 野崎:
- 働き方はどんどん変わってきていまして、2010年に生産性2倍運動として残業時間が削減されました。本多さんが入社された2012年ごろはまだ、一定の残業も残っていました。今は残業時間月平均3時間程度まで削減されています。2016年に全社員にSurfaceが貸与され、2020年にはTeamsも導入されたことでペーパーレス、情報の見える化が進み、より生産性高くどこでも場所を選ばず働けるようになった実感があります。
元々、北國銀行は入社時点で総合職、エリア職と入口が違いましたが、今では新入社員もキャリアを見据えて配属先を選択していくようになっています。また、営業部門はノルマも廃止されて、数値目標もほぼ掲げていない状態です。
- 松本:
- ノルマがなくなるって結構大きな変化だなと思うんですが、どういうきっかけがあったんですか?
- 本多:
- そうですね。会社が20年ぐらい前に、お客様にアンケートを取ったようです。その回答結果の中に、銀行には融資しか求めていないっていうような回答が多くて、それではまずい、社会に求められない会社になっていくと。本当は一緒に課題を解決していく役割・立場を担って地域の活性化に貢献していかないといけないんですけど、そこに期待されてないっていうのが分かってしまったんです。これは金融業界全体が抱えていた問題だと思いますが、本来はこれから成長していく会社や個人投資家の人たちも含めて求められあるべき場所に配置すべきはずなんですよね。そこでプッシュ型営業からプル型営業へという言葉も出てきて、お客様が求めていることを理解して、求めているところに対して適切なサービスを提供していくという形に変わっていきました。会社としてノルマを廃止しながらマインドも変えてくれたっていうところがポイントなのかなと思います。
- 赤木:
- マインドを変えるっていうのは言葉では簡単なんですけど、今までそのノルマを重視して働いていた人たちに対して、いきなり変えろって言われても結構難しいですよね。
- 本多:
- 目標の設定の仕方とともにやはり評価制度が変わっていきましたね。少しずつ評価の対象を成果ありきではなく、プロセス重視、いわゆるKPIで評価するとか、行動の質みたいなところで評価するように徐々に変えていきました。だから、結果がすべてではなくて、組織や地域にはいろんな貢献の形があって、そのプロセスや貢献度評価する形に変わりました。
- 島津:
- 目標って具体的に立てるようによく言われますが、プロセスの評価というのは評価する方もかなり難しいですよね。過程を評価する形に変わって満足度は高くなっているんでしょうか。
- 本多:
- 間違いなく良くなってると思います。ノルマがあるときのお願い営業とか、これを売るべきなのかわからない状態で売るときのストレスの方が大きかったんだろうなと思います。お客様によって求めるサービスが違うわけですが、我々の実績って担当するお客さまやエリアの状況によって違うのが正しくてそうあるべきなんですよね、本当は。求められているものがお客様によって違うので、獲得って絶対平準化しないものなんですけど、それでいいってなったのは、営業にとって本質的な部分でストレスは減ったんじゃないかなと思います。
組織は一人ひとりの働き方を考え、一人ひとり
は自身の働き方を考える組織に
- 松本:
- 北國銀行の組合から北國FHDの組合になり、もちろん組合の名前とか組織も変わったと思うんですが、ここが特に変わったなというところはありますか?
- 野崎:
- これまでは、春闘や賃上げ、賃金関係の交渉が大きかったのですが、人事制度も変わって、働き方も一人ひとりに合った働き方が尊重されるようになり、組合としてもこれまでと同じではいけないと。一人ひとりの活動を支援して、キャリア自律へ向けてサポートする役割にシフトしたのが、ちょうどホールディングス化したタイミングでした。
- 松本:
- 賃金交渉よりも一人ひとりのサポートにシフトした、というのはどういうイメージなんでしょうか。人事制度がかかわっていそうですが、キャリア型人事制度がスタートしたんですよね。組合員にとって非常に大きな話ですよね。銀行って総合職と一般職の方がそれぞれいて、キャリア型人事制度ってどちらかというと総合職の方に向けたものだと思いますが、北國FHDのキャリア型人事制度っていうのは全員に向けたものなんですよね?
- 野崎:
- そうです。全員がホールディングスの社員として転籍した際に、評価制度や人事制度は全社員が平等に対象になりました。ホールディングス化によって、「銀行員」じゃなくなった、変わったんだっていうことを認識するために、いろんな改革を統合日の2022年の3月1日に合わせていきました。
- 本多:
- キャリア型人事制度になったことによって、役割と給与が紐づいていることになります。そのため、北國FHDに入社して配属されるという中で、どこの役割を選ぶのか、ということによって給与水準も自分で選んでいるようなところがあります。横並びの要求をすればするほど、ジョブ型に近い今の人事制度とは考え方がずれてくる。役割に応じてさらに貢献度によってもメリハリをつけることになるので、そこの納得度とか、一人ひとりのキャリア自律、オーナーシップマインドを習得していくことをサポートしていくという考え方に組合としてもシフトしていった、という感じです。
- 松本:
- なるほど。一人ひとりがキャリアを与えられるのではなくて、自分で考えていくことによって、自分の納得ある処遇につなげていく、という考え方ですね。そういえば、役割の変化に伴って「北國銀行従業員組合」から「北國FHD社員組合」に、名前とロゴマークを変えられていますよね。従業員組合から社員組合へ、というのは、どういった意図があったのでしょうか。
- 野崎:
- 従業員組合ですと「従う」っていう漢字が入っていますよね。会社に従うっていう存在ではなく、社員一人ひとりが会社と対等にパートナーシップを結んでいる存在であることを示したくて、ホールディングス化のタイミングで変えました。
- 島津:
- そういった思いがこめられているんですね。思いという部分で、話は少し変わりますが、我々は今期、5年間でやってきた中期ビジョンが終わり、現在は新しいビジョンを検討中です。貴組合ではいわゆるビジョンはどのように制定されていますか?
- 野崎:
- 私たちは委員長、書記長とも1年交代で変わっていきます。これまでは、コアバリューという大切にする価値観があって毎年委員長によって運動方針を決めていました。委員長の考えで1年ごとにに活動の色が変わるというのは良さでもあり、課題でもありました。会社も色々な変革を進めてきていて組合員が取り巻く環境も変化するので、柔軟な活動を展開していくうえで大切にしたい軸を更に明確にしておく必要性を感じ「ミッション・ビジョン・バリュー」を策定しました。
ミッションには、目指したい方向性は根本的には一緒だという思いを込めて、会社と共通する存在意義として会社の企業理念と同じ言葉を掲げました。ビジョンは、執行委員会でアイディアを出し、全体を網羅できるような要素を入れながら考えて中長期的に実現していくイメージを持ちながら策定し、今年から動き出しています。
- 松本:
- ミッションが会社と同じ、というのはこの考え方を僕らは逆に持っていませんでした。結構特徴的ですよね。

- 本多:
- 最初はそれっぽいのを考えていたんですよ。ただ、執行委員ですら覚えられない懸念が出てきて。特にミッションの部分では、会社とは立場は違うけど思いは一緒というか、この会社に入った時点で、このミッションを掲げて活動するっていうのは共通認識で、立場は違っても社員目線でこのミッションを達成していくんだと。ビジョンは、そのための組合の中長期的に実現したい世界で、バリューは大切にすべき価値観を言語化していきました。ミッションを会社と一緒にしようと意見がでたときは結構、「これだ」と手ごたえがありました。
- 島津:
- 同じ使命を果たすのに会社と組合で別のアプローチがありながらも最終的にゴールを同じところを見る、という考えなんですね!
- 本多:
- 現在は執行委員会で自分がやりたいこととビジョンの達成を紐づけして、組織としてどういう状態にするか、ロードマップを作っているところで、いよいよ活動にミッション・ビジョン・バリューが落とし込み始めている段階です。将来的には組合員にもじわじわと浸透していって欲しいと思っています。
- 島津:
- お聞きしていると、会社は会社、組合は組合、で区切ってないというか、一緒にやってる、共存してるんだなっていうのを感じますね。
- 野崎:
- そうですね。「オーナーシップマインド」についても会社と組合で特に重要視して取り組んでいます。人事部門と連携しながら新たな施策として社員向け決算説明会やCEOとの1on1の場を構築しています。

「被災地」であることの
難しさはいまも続いている
- 松本:
- 2024年1月の地震についてもお聞きしておきたいと思います。マスコミ報道も大きく取り上げられていましたし、被害も大きかったと思います。この地域にとってすごく大きいものだった中で、組合としてはどのように対応されたのでしょうか。
- 本多:
- 災害対応の判断は非常に難しかったです。やっぱり様々な立場の方の話がありました。私もそうですが今住んでいるのは金沢だけど父親の実家が能登、とかもちろん実家が能登とかそういう人って本当に多いんです。1月1日だったので、正月そこにいたっていう社員はやっぱりたくさんいました。例えば会社から出す見舞金一つにしても、自宅以外にも実家の損壊に対しても出したらいいんじゃないかとか、その線引きを決めるっていうのはすごく難しかった。労使協議会で経営陣ともすり合わせしながら、正解がない問題の最適解を探していったところもあって。いろんな組合員の声があったので、本当に難しい決断をしてきたなっていうのがこの1年間でしたね。ボランティアにしても強制されてやるものではないし、やりたい人の背中を押すための災害ボランティアセミナーとか、震災で受けた心理的な支援のためのマインドフルセミナー、早稲田大学の教授と学生を連れて、社員の人と会ってもらって心理的支援活動をしたんですけど、こういうことをしていくといろんな場所にいろんなトラウマの形があって、半年経っても1年経ってもまだまだ解消されてないことなので、ここは会社と一緒に協力しながら、取り組んでいきたいですね。1月1日には、またアニバーサリー反応でトラウマが表に出てくることが想定されるので、ここは終わりががないんですけど、継続していくしかないんだろうなと思ってます。

- 赤木:
- 本当にお疲れ様です。私たちとしても遠くからできることしかできませんし、いま、ここにいる皆さんのご苦労は計り知れないものがあったことも改めて実感します。いま言われていた「判断の難しさ」というのは、どういうところに特にあったんでしょうか。
- 本多:
- おそらく活動の中に被災者が混ざるっていうことかなって思います。だから、トラウマの強さは人それぞれ違うんですけど、みんな被災者なんですよね。被災して全壊して仮設住宅にいる人もいるし、金沢に移住してきている人もいるし、僕みたいに当日能登で被災してるけど金沢で生活が戻ってきてるっていう人もいるんですけど、それぞれのトラウマが違うので、できる支援の形が一律じゃない。全体を網羅できない難しさというか、一律で解消できない難しさみたいなところなのかなと思いますね。だから、見舞金をあるところで線引きせざるをえなかった判断も、いろんな状況の人がいる中で、一律にケアできないし解消できないけど、なにかやっていかないといけない。きりのなさというか。そういうところは今も本当に難しさを感じています。
金沢と能登の被害状況が全然違うっていうのも多分難しさの一つで、結構震災直後から金沢ってすぐに生活が戻ってきたので、能登に勤務する人と、金沢に勤務する人の温度差がどうしてもあります。それは悪いことじゃなくて、それをみんなで自分事にしようっていうのが正解でもない。そういったことを「難しさ」という言葉でまとめてしまうのも違うかもしれないんですが、なにを今どこまで組合として関与すべきか、というところは、本当に難しい決断が多かった。会社の関係部署とたくさんコミュニケーションをとったから一旦乗り越えた。自分たちだけでは判断できない決断が多かったと思います。
労働組合の未来のかたちは持株会にあるか?
- 松本:
- いろいろとお聞きしてきましたが、業界として大きく変化している中で、様々な活動をリ・クリエーションされていると思います。これから組合が担う役割について今後どうなっていくか、どうなっていったらいいか、どのようにお考えでしょうか。
- 本多:
- これは多分相当ややこしいことを言っちゃうと思います(笑)。前回の労使協議会で改めて組合のあり方を経営陣と議論しました。当社では、譲渡制限付き株式を決算賞与としてもらっているので、全員が株主となっていて、社員持株会が第4位の大株主になっています。これまではいわゆる組合の機能として、制度改定があるときに、執行部が組合員に対し説明して意見を吸い上げてそれを提言するというところをブラッシュアップしてきていました。例えば、執行部の女性比率を上げたり、働き方改革を進めてブランディングをしていったり、労働環境とか賃金に限らずいろんな吸い上げた意見から経営に提言していくみたいなことです。その軸から進んでいって、最終的には企業統治改革みたいなところに組み込まれて、社員持株会の中に労働組合の機能を組み込んでいく形になっていくんじゃないかと。執行委員っていう表現でなくなるかもしれませんが、執行委員全員が社内副業の一貫で持株会役員として兼務をしていて、本業の20%をそこに費やす、公募みたいな感じで集まって、持株会が軸の組織を運営していくようなかたちです。経営陣がいて、社外取締役がいて、社員持株会を軸にした組合の組織が、コーポレートガバナンスの一環を担っていくみたいなところに進んでいくのではないかと思っています。
- 松本:
- コーポレートガバナンスとして、社員が経営者、社外取締役に続く第三の柱として、株主としてのアピールをするということですか。
- 本多:
- そうです。大株主である持株会として一つチームを作って、ある意味社外取締役とニアリーイコールの組織として、会社と地域をより良くしていくみたいなところに軸足が変わっていく方向性なのではないかと思っています。
- 野崎:
- そうすることによって社員一人ひとりが、経営者視点を持って自分事として会社をより良くして、地域をより良くしてこうっていうのを目指していけるのかなと。
- 島津:
- 正直、全然聞いたことがない話ですね。自社株を賞与として配布するという話自体は聞いたことがありますが、社員持株会を軸に会社と社員の話し合いをしていくというのは、金融業界ではよくあるケースなんですか?
- 本多:
- おそらくまだないと思います。これに近いのがドイツ式監査役と呼ばれるドイツの持株会の形です。これまでも組合はドイツ式監査役のように経営陣に提言をする存在になってほしいという思いが経営陣とのコミュニケーションの中で何度もディスカッションしてきました。現状の制度では管理職になると組合員から外れるんですけど、その人たちって、会社の中でリーダーとして活躍してる層なのに経営陣との交渉の中に出てこない。持株会だと管理職も当然入ることになるので、いわゆる組合機能のところに管理職は入れないかもしれないんですけど、持株会ベースの機能には当然入ってくる形になるので、本当に全社員が経営に関して提言するような形になり得るかもしれない。
- 野崎:
- 前例がなくて今から考えて取り組んでいくところなので、人事部門とも相談しつつ、どういう存在で目指していくかっていうのを練って、労使協議会等の場で経営陣に壁打ちをして、どんなあり方がいいかっていうのをこれから考えていく予定です。
- 松本:
- 面白い。ちょっと頭が追い付いていないですね。
- 本多:
- 面白いですよね。僕らも労働組合として今までやってきたことが無駄だったみたいな考え方にはまったくなってなくて、すごい面白いなとは思えてるんですよね。
- 野崎:
- 今までしてきたことがあるからこそ、こういったことを考えられる体制になってきてるんだなと。それも活かしつつ、プラスで違う分野も二軸で走ることができるので面白みがあります。難しさもありつつですけど。
- 本多:
- そんなことを考えていく来期執行委員は、野崎が委員長になるんですけど、初めてダブル女性専従の体制になります。翌期は55歳以降の業務職の方が初めて執行委員に就任することになっています。
- 野崎:
- 業務職の方も組合員なんですが、私達が取り組んでいることって家族参加型とか若手社員向けが多くて、この層に対してのアプローチは弱いっていうのが組合員との1on1で気付けました。私たちから言っていくよりも、その立場の方からの言葉の方が、より業務職の組合員の方も自分事に感じるんじゃないかっていうのもあって、お誘いさせていただきました。本人も面白そうって、すごく前向きにすぐお返事いただきました。
執行部には既に育児短時間勤務の方が2人いて、来期は女性が12人中7人になります。人数が多いからいいというわけじゃないが、いろんな構成の方がいる12人の体制で、3月の新体制開始から1年走って行きたいなと思っています。
- 赤木:
- 私たちにはないもの、違う状況が多くて、正直なところ真似できることばかりではありませんが、本当に刺激になり、勉強になりました。これからの新体制を応援しています!