キリン労働組合×日清製粉労働組合
キリン労組様対談より良い社会に向けて、
私たちは何ができるか。
なぜ労働組合が社会とかかわるのか
- 松本:
- 今日はありがとうございます。この対談企画も今回で3回目となります。キリン労組さんには、「より良い社会に向けて」ということで、なぜ組合が社会に関わりを持っていかないといけないのか、という視点で産業政策や社会貢献活動の取り組みのお話を伺いたいと思っています。
- 立松:
- 「世の中を良くしていこう」という考え方が大事ですよね。具体的な取り組みの前段の話になりますが、労働組合というのは1人では解決できないことをみんなで解決していく組織です。1人では解決できないことをまず各職場で解決していこう、各職場で解決できないことは会社全体で解決していこう、そこで解決できないことは産業全体として解決していこう、と。だったら自分の会社とか職場のことだけやっていたらいいわけじゃなくて、ビール業界でいうと競合のアサヒさんサントリーさんサッポロさんともしっかり手を取り合って、業界全体を良くしていかなきゃいけない。業界以前に世の中全体が平和じゃなきゃそもそも生活できないよね、という考え方のもと、自社だけじゃなくて社会全体の活動にもしっかり参画していこう、というのが根本にあって、この考え方をまず浸透させていきたいと思っていますね。
- 松本:
- わかりやすいです。おっしゃった業界全体で、という話はこのあとの産業政策に繋がっていくと思うのですが、もう一つ、別のベクトルで、「地域との関わり」がありますよね。日清労組でも、支部が周辺の清掃をしたり、地元の福祉協議会に寄付をしたり、という活動があります。組合が産業という横軸のほかに、地域社会とかかわっていく意味合いについてはどう思われますか。
- 立松:
- 一人一人が会社を出れば社会の一員、生活者の一員ですから、労働組合は会社の中のことだけを何かやってればいいという考え方ではなくて、生活者として社会を良くしていくことに貢献していくべきですよね。そこに紐づいて地域社会を良くしていく活動にしっかり取り組むということではないのかなと思います。
- 山下:
- 私は工場出身ですが、地域の清掃活動とかそういうものに参加するのが普通になっているんですよね。例えば、私が支部長をやっていたころ、近くの海辺の清掃活動を家族ぐるみでしたりとか、結構みんな協力してくれるんですよね。工場はそういう活動が根付いていますよね。
- 新谷:
- 生産拠点はその地域の方が働いている一方、マイナスの面もあるじゃないですか。処理した水が出てしまっていたり、CO2を排出していたり、そこに対して恩返しをしないとっていう意識もあるかもしれません。
- 山下:
- 最近は工場以外でも、営業支部で社用車を置いている駐車場の草取りやろう、っていうような話を聞いて、そういうことに気づいて何かしようっていうアクションが見えて、いいところに目を付けたなと感じましたね。社会貢献活動ってどういうことなのか、とか難しいことを考えずに、できるところからやっていこう、というように少しずつ理解が進んできたような気がしています。
- 立松:
- そういう風土を作っていくっていうのは大事ですよね。今のお話を聞いていて、自分の会社だけよければいいとか、そういうことから一歩でも脱却して、些細なことからでも一歩行動に出るということが大事だなと思いましたね。
ペットボトルのリサイクル推進への取り組み
- 松本:
- もう一つ、社会へのかかわりとして、産業政策という方向性があります。これは正直なかなか馴染みがないと思っています。でも、これによって変わったこともあるし、変えることができる、ということも普段の支部活動では見えないと思うので、皆さんにお知らせしたいなと思っています。
- 新谷:
- そうですね。何でやるのか、ということについては、労働者の一個人とか企業内労働組合には対応できないものについて、我々仲間が集まって国や地方団体に訴えていくことが必要なんだと。フード連合の産業政策を実現すると、加盟している人たちが働きやすくなって、働きがいが上がり、食品産業自体の魅力が上がる。そうすると食品がより安心安全にもなって、国民全体が豊かになりますよ、ということだと思っています。飲料ビール部会でもまだまだ周知していかないといけないんですが。
- 小森:
- 飲料ビール部会さんでは、プラスチック資源循環促進法、俗にいう「新プラ法」が制定された際に立憲民主党に提言をされたんですよね。
- 新谷:
- ペットボトルの話ですね。綺麗なペットボトルをそのまま1回原料化粉砕して、もう1回新しいペットボトルにリサイクル
することを「ボトルtoボトル」と言いますが、このボトルtoボトルのリサイクル率は16%(2020年度)ぐらいですが、それをどんどん上げていかないといけない。ただ、新プラ法の施行前には、ペットボトルの排出を削減して、ペットボトルを販売しないとか、自動販売機からペットボトルを抜けばいいのでは?という話になっていた。あのときは、世間的にも海洋プラスチック問題が取り上げられていて、海洋プラスチック=ペットボトルが悪者、になっていた時期だったんですよね。でも、実際には海洋プラスチックに占めるペットボトルの割合って6%くらいなんです。これだけを取り上げてペットボトルを削減すべきっていうのはおかしいんじゃないか、ということで、我々の産業を守るためにも立憲民主党を通じて提言しました。
- 小森:
- 飲料の中でペットボトルの流通量って全体で7割ぐらいあるんですよね?
- 立松:
- 75%ぐらいですね。
- 小森:
- かなり多いですよね。それをプラスチック排出っていうイメージがあるから減らす方向に安易に行かずに、しっかりエビデンスに基づいて、政治家の皆さんにお話していたのがすごく印象的でした。日本はペットボトルの回収率がめちゃくちゃ高いらしいんですよ。アメリカとか2割で、環境問題にうるさい欧州ですら4割っていう中で日本は9割。圧倒的に高くて、企業も自治体も協力してやっているからだと聞いています。そういう中でペットボトルだけをやり玉にあげるべきではない、ということが数字でよくわかりました。
- 立松:
- まさにペットボトルが悪なのではなく、ペットボトルをちゃんとリサイクルできる環境にないことが悪なんですよね。自動販売機の横に置いている回収箱ありますよね? あれ、ゴミ箱じゃなくて「リサイクルボックス」なんですよ。これをゴミ箱だと思って弁当のゴミとかコンビニコーヒーのカップとか入れる人がいる。あれをやられちゃうと、実はリサイクル率が落ちてしまったり、リサイクルに関わる人の仕事がすごく大変になってしまうんです。
- 新谷:
- 実際に中間処理業者の方のところの職場訪問をしました。リサイクルボックスに入っているものの30%が異物なんですよね。コンビニコーヒーのプラスチック容器だったり、弁当容器のゴミ、マスク、オムツ、動物の糞とか、タバコとか入っている。それって働いている人は全部回収しなくちゃいけないですよね。オムツ入っているからって横に置いて帰れないわけですよ。法律的には回収しなくていいんですけど、リサイクルボックスから抜いて弁当箱とオムツとたばこのゴミ取って分けてこれだけ回収しますって言えないじゃないですか。アンケートをとったら、2人に1人は自販機の横に置いてあるものはゴミ箱だと思っているようで、それを今、業界団体と一緒になって、どうアプローチすればリサイクルボックスって正しく呼んでもらって、正しく空き缶と綺麗なペットボトルだけを入れてもらえるかっていうのを進めている状況ですね。
- 立松:
- この話をまとめると二つの問題があって、一つはいま話したペットボトルのリサイクル推進を阻害している問題、もう一つは働き手の労働環境の問題です。飲料ビール部会の仲間である自動販売機の補充をするオペレーターの労働環境として、飲み物の補充をして横にあるリサイクルボックスを回収していく際に、異物、例えば注射針とかが入っていたら、手に刺さってしまうかもしれない。さらにその先に、それを処理する中間処理会社さんの労働環境はすごく過酷なものなので、これをやっぱりなくしていかなければいけない。この二つについては特に力を入れている産業課題ですかね。
- 小森:
- 働いている人の環境にもつながるという意味で、労働組合的なテーマでもありますね。回収している方は自販機のオペレーターの方ですから、私達と同じ食品業界で働く人たちの労働環境を悪化させるようなことはしてはいけないですよね。
- 新谷:
- さっき上げたもの以外にも、動物の死骸が入っていることもありますし、酔っ払いは中に吐いちゃったりもしますし。夏とか本当に最悪だと聞いています。ただでさえ、ちょっと残っている缶とかだと口が開いているので臭いがすごいんですが、直接やられたらもう大変で本当にたまったもんじゃない。綺麗なペットボトルを粉砕して、もう1回ペットボトルにするのが一番効率がいいんですが、それができなくなってしまうので、異物は本当に入れないようにしてもらいたいですね。
- 小森:
- これを見た人が1人でも多くやっちゃダメだと思ってもらいたい。
- 新谷:
- そうですね。自動販売機の横にあるボックスはリサイクルボックスだって覚えてもらって。日清製粉労組のみなさん、よろしくお願いします。
- 立松:
- 皆さん結構仲間の商品を買う方には結構意識が向いてきていると思うんですけど、実は捨てるときも仲間のことを思ってほしいんですよね。
- 松本:
- 今の話は、会社側では動いていなかったんですか?
- 立松:
- 新谷さんがさっき言った業界団体というのが、会社からの人を派遣してできている団体なんですね。各飲料メーカーの人がそこに行って、結構動いています。あれ実証実験中だっけ、リサイクルボックスの逆向きのやつ?
- 新谷:
- もう終わりました。
- 立松:
- あ、終わったんだ。要は、異物をそもそも入れられないような形にしようっていうことで下から入れる口の形のリサイクルボックスを、業界団体が加盟会社の意見を聞きながら作って実証実験をしました。それからそれがある程度有効だと判断されたので、展開していこうという段階ですね。
- 新谷:
- 普通にキャップが閉まっていれば下から入れていいんですけど、今までみたいにコンビニのアイスコーヒーのカップとか、スタバのカップとか入れるとすると、中身が手にかかったり、カップが大きさ的に入らないようになっている。ボックスも開かないようにロックして物理的にも入れられないようにするし、リサイクルボックスですよっていう啓発と両方から取り組もう、ということを業界団体と一緒になってやっています。
- 小森:
- オレンジ色のボックスに統一して、目に見えてわかるような仕組みにしていこうっていうやつですよね。
- 新谷:
- そうなんです。色も統一して、今までは各メーカーの色でそれぞれ違うんですけど、もう業界で統一して自販機の横にあるリサイクルボックスはオレンジ色だとみんながわかるようにやっていく。でも統一するには、会社側としてはお金とかコスト競争領域だから変えたくないなって思っているので、自分たちから、僕らに必要なんで変えてくださいってしっかり言っていこうと思っています。
- 山下:
- ちょっと心配なのが、入れにくいから捨てちゃえ、となって今度は投棄が増えるんじゃないかなと。
- 立松:
- おっしゃる通り、そこが懸念なので、国会議員を通じて行政に対してアピールしています。公共回収ボックスが減って異物が増えたということは事実なんですよね。地下鉄サリン事件以来、街中のゴミ箱が減って、JRとかでもなくなって今は新幹線ぐらいじゃないですか。コンビニも公共回収ボックスを店内に入れたりなくしたりしていて、でも自販機の横のリサイクルボックスはある。
だから、みんな捨てるところないな、これなら入るなみたいな感じで入れちゃう。異物が入らないようにちゃんと行政が予算をつけたり、公共ゴミステーションを作ったりやってくださいとお願いしているんですが、なかなかそこは進んでいないですね。いまはその部分がキーポイントです。
「営業の働き方」問題は業界共通の課題
- 立松:
- もう一つ、業務用営業の話として、ビール業界の営業マンって、特に飲食店向けの営業はやっぱり飲みながら営業をかける、夜遅くまで飲む、みたいな働き方が深夜まで及ぶ状態にあることがビール会社の共通の課題認識です。ここを何とか産業課題として変えていけないか、1つの会社だけでやっちゃうと、そこって競争領域でうちだけが辞めても他社が行っちゃうってなっちゃうので、一緒になって取り組んでいこうと。
- 新谷:
- コロナ禍で飲食店さんが少し休んだりしている間、業務用営業の人たちって働き方が変わって、夜飲みに行かずに済むようになったので、これいいねってなっていたんですね。でも、また今復活しつつあって、これまた前の働き方に戻るのかよ、何とかしてくれよ、という声が上がっています。これが続いちゃうと、例えば夜飲みに行けない小さい子供がいる人とか、介護しなきゃいけない人とか、こういう組合員はその仕事に就けなくなっちゃいますよね。拘束時間もすごく長くなるので、そうするとこれから若い人たちがこの会社この業界を目指してくれなくなっちゃうんじゃないかと。まだ具体的に何か案を出している段階にはまだ至っていないですが、今ビール4社の労働組合が中心となっていろんな話をしています。
- 松本:
- 率直にすごい話だな、と思います。当社でも「飲み会が戻ってきている」ということに対していやだなという気持ちを持っている営業マンは結構いるように感じています。ただフード連合の中にも得意先となる方々がいる、ということもあって製粉業界ではまだまだ横のつながりを持って何かをする、ということができていないのが現状ですね。相手の立場、ということからするとどうなんでしょうか。
- 立松:
- 相手の酒販店さんからしたら、業界自体健全にしていきましょうという、共通のゴールをしっかり示すことが大事かなと思います。もっと遅くまで飲み行こうぜと言われて、行けませんって言うと怒っちゃうかもしれないですが、でもそんなことばっかりしていたら優秀な人間がもう来なくなって、御社にいい提案できなくなっちゃいますよと、そういった理解をしてもらいたい。どんどん人口が減っていく中で、優秀な人材を獲得して、優秀な人間を、あなたのところの担当として送り込むためにもみんなで良くしていきましょう、みたいな、ベクトルを揃えていく作業を地道にやっていくしかないですよね。
- 小森:
- 利害関係を超えて、どういう働き方が望ましいかとかありたいかとか、そういうことがベースでないと巻き込めないんでしょうね。公正取引についても、フード連合だけじゃなく、UAゼンセンのように小売りや飲食店が多いところが、買う側の立場として変えていこうということをやってくれていますし、何があるべき取引関係なのか、ということがあるから進むのだと思います。
- 新谷:
- 僕らの働き方を変えていかないといけないですよね。みんなでやりましょうってなっても、どこかが数字を取れなくなってやっぱり飲みに行く、そしたらうちも行かないとって、結局元に戻っちゃう。どういうふうに行かないでいいような価値を与えられるかというのは真剣に考えないと、業界自体は変えられないし、向こうの市場の発展みたいのに貢献できないと思うので、そこはハードルが高いですが議論を4社でしているところです。
- 立松:
- 支部や組合員の皆さんと産業政策の距離感を埋めるのは、まさに自分たちの問題をいかに僕らが取り扱うかってことだと思うんですよね。さっきのペットボトルの話も、飲料業界で働いている人なら必ず関係してくる。例えば自販機を設置してくださいって営業しているキリンビバレッジの人も、うちはもうペットボトルが入っている自販機はおけないルールなんだよってなってしまえば、仕事にも影響出てきますし、リサイクルボックスの回収の話でも既にずっと苦労してきている組合員がいる。そこを解決していこうってなったら、これいいねってみんな納得できて、組合活動って意味あるんだなとか上部団体で加盟することって意味あるんだな、と実例を通して実感してもらうことが必要だと思っています。なので、ペットボトルとか、ビールの業務用営業の働き方はまさに組合員が現場で悩んでいることに直結するので、しっかり取り組んでいこうと思っているんですよね。
- 松本:
- 管理職の働き方の問題もありますよね。管理職を見ていると、こんな人生、こんな働き方になるんだったら管理職になりたくないって思う人もいる。
- 立松:
- まさに、組合員の労働時間管理って言ったら、そのしわ寄せが単純に管理職にいっているだけで、トータルはあまり変わってないみたいなことがよくありますよね。うちも全く一緒で、管理職目指したいっていう人が減っているんじゃないかと。会社が今、女性の管理職とか女性の会社の役員の比率を増やそう、2030年までにそれぞれ30%以上にするって掲げているんですけど、そうしたら社内でそもそも別に目指したくないという意見もありました。女性全員が管理職目指したい人っていう前提の建付になっていて、そもそも、目指したい人が育児とか出産とかで休んじゃってキャリアがちょっと遅れちゃうから、そういう人たちをどう育成していくか、みたいな。そもそもちょっと本質の課題が別にある。会社もそこは理解していて、管理職の働き方働きがい改革みたいなところは課題にしていますけどね。
- 新谷:
- 今でも必死に働いているのに、リーダーは土日もパソコン開けて自分たちよりももっと過酷に働いていて絶対嫌です、みたいな。これ結構危機的かなと思っていますね。
- 小森:
- しわ寄せって何の解決にもならないですよね。結局、中間管理職が潰れちゃうと破綻するわけですし。
- 立松:
- そこは組合から求めるかどうかちょっと微妙なラインではありますよね。キャリアっていう観点も必要だし。
- 小森:
- そうですよね。総合職系の組合員にとって、将来の労働条件になるところでもあるので、分け隔てなく考えないといけないなとは思っていますね。
製粉業界の産業政策
- 松本:
- 色々お話し伺ってきました。製粉部会での産業政策については、小麦粉の安定供給に資する政策、適正な価格の実現、安全・安心確保という三つの視点がありますよね。
- 小森:
- 実際にアクションを起こしたのは、4月13日に立憲民主党の泉健太さんにお会いして、輸入小麦のマークアップ引き下げについてお話ししました。マークアップってあまり聞きなれないかもしれませんが、小麦を国が一括して買い入れて、製粉会社に売り渡すときの差益をマークアップと呼んでいます。国際価格よりもマークアップ分だけ高く買っているわけですが、現在小麦価格はものすごく高騰しています。世界の小麦貿易量の3割を占めているロシア・ウクライナの影響が10月の価格改定にに跳ね返ってくる見込みです。ただでさえ数回連続で大幅値上げが続く中でさらに上げるとなると、営業マンとかの価格交渉も困難を極めるし、それから国民生活にものすごい影響を与えるだろうということで、このマークアップの引き下げを泉健太さんが求めていきたいと考えています。実際、今回国会の中でも小麦の価格どうするんだっていうことを泉さんと岸田総理の間で論戦を交わしてもらっています。
- 新谷:
- 泉さんもですけど、国民民主党の玉木代表もその話をしていましたよね。岸田さんは「大丈夫です。小麦の値段はあげません」と言ったけど、制度的に上がらないだけだと。
- 小森:
- そうですね。前提として、輸入小麦の価格改定は4月と10月なんですよね。4月に改定するのは去年9月から今年の3月とかで買った分なので、それ以降、ロシア・ウクライナ情勢に変化が生まれている。
- 新谷:
- ウクライナ情勢はまだ反映されていないんですよね。
- 小森:
- そうなんですよ。9月まで政府売渡価格は据え置くっていうのは、改定の時期ではないからそうなるだけの話で、実態と違う。営業マンも得意先から多くの問い合わせを受けたようです。実際は、制度上は必要に応じて期中でも改定できるが、そんなことはしないということを岸田さんは言いたかったということで、単なる説明不足だったっていうことが後からわかった。でも大事なことは10月の改定ですので、今このあたりの議論をしてもらっています。
- 新谷:
- これを機に国内産の小麦を使おう、という話もありますよね。
- 小森:
- そうですね。でも、実はそれってあまり意味がない。国産小麦の価格は国際相場に合わせて変動する仕組みになっています。ですので、国産小麦を振興しましょうといっても、海外の小麦の値段が上がれば国産の小麦も上がるから意味がないんですよね。これは玉木さんがYouTubeでも説明してくれていました。国産小麦を使っても物価高騰の防止にならないんです。
- 立松:
- そのことに対する提言とかもされているんですか?
- 小森:
- いまの国産小麦の価格設定は民間の仕組みなので、政治の方面からは手をつけにくいっていう側面があります。輸入小麦の価格引き下げが、結果として国産小麦に繋がることになるので、まずはそこからですね。
- 立松:
- イメージとしては、ガソリン税のトリガー条項の解消みたいな感じですかね。余計なものを緊急的に今だけでもなくせないか、みたいな。
- 小森:
- そうですね、それに近いです。ただ実際、国産小麦の品質改良と生産性向上というのも重要なテーマですね。製粉会社としては基本的には輸入小麦の方がスペックが高いので、安定して扱いやすいんです。もっと国産のものを使っていくためには、やっぱり品質を良くしてもらう必要がある。実際に生産現場にも行って、どこに予算をかけたらより良くなるのかといったことを学ぶ、ということもやっていますね。
- 新谷:
- 以前に玉木さんと話したときに、日本のパンは柔らかくてしっとりしていて美味しいという話になりまして。そのときパン部会の方もいて、海外の小麦生産者さんにも相当要望を出して作ってもらっていて、海外産は粗悪だというイメージとは逆なんですという話をしていました。だからこそ、安定的な輸入ができないとパン屋さんは生活できない、というようなお話もあったんですよね。
- 小森:
- 日本って世界有数の高品質小麦輸入国なんです。だからアメリカとかカナダとかオーストラリアからすると超上顧客ということになります。
- 立松:
- 製粉メーカー側としても、品質は維持したままってのは大前提?
- 小森:
- 年によって小麦のスペックはばらつきがすごいです。ただ、最終的にお客様にお届けするものは一定を保たないといけない。そういう中でいうと、やっぱり扱いやすい安定した原料を、毎年毎年ある程度のスペックで調達できることは大事な前提ですね。
1人1人が関心を持つことがはじまり
- 立松:
- 単組の中で産業政策をこういうふうに伝えているとか、浸透されている、というのはお話はありますか?
- 小森:
- 各種会議で経過報告は当然しますが、まさに今回、この機関誌がその取り組みですね。具体的なアクションを起こし始めたのも今期からなので、どんどん取り組みの中身を深掘っていけたらいいなと思っています。
- 立松:
- やっぱり組合員が組合活動や組合に求めるものって、まずは労働条件じゃないですか。次に職場環境や働き方。産業課題とかに関する感度って日清労組さんではどうですか?
- 松本:
- 産業課題そのものに興味関心はあると思います。でも、それを組合に言ったって変わるものだ、と思ってもらっていないという気がします。テーマが壮大すぎて、本当に自分たちの力で変えている実感がわくかっていうと、難しいと思うんですけど、それって伝えないと絶対気づけない。世の中って知らないうちに良くなっていると思っている人もいるかもしれませんけど、そういう働きかけが大事なんだっていうことは伝えていきたいなと。
- 小森:
- 実際に泉さんや玉木さんに話してもらいましたけど、ちゃんとこちらとして主張したいことが伝わっているんだなと。例えば、先ほどの小麦のマークアップ引き下げの話については、引き下げればそれでいいのかっていうと、実はそんな簡単な話ではなく、小麦のマークアップって国産小麦農家の助成金に使われているので、その原資がなくなってしまうわけです。その原資の捻出のために、例えば製粉会社の小麦備蓄に対する補助金を削減しようとなってしまったら本末転倒ですよね。そういう悪影響がないように国の予算をしっかり確保してもらうとか、しっかり検討してもらいたいっていうことをお伝えしたら、実際に政策に盛り込んでくれていました。実際に言えば伝わるんだっていうのはすごく嬉しかったですね。
- 立松:
- 政治の話と一緒で、結局自分1人声を上げたって変わらないって思って、離れてっちゃったらもう本当に何も変わらない。産業政策については、実は1人1人に直結している話だから、気づいてもらって、一緒に進んでいければいいと思います。今日はありがとうございました。