不二製油労働組合×日清製粉労働組合
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変わりゆく社会の中で、
労使はどう変化していくのか
「春闘」ではなく「春討」への変化
- 松本:
- 本日はよろしくお願いいたします。不二製油労働組合さんでは、春闘を闘うではなくて「討議」の「討」の字で取り組まれていること、キャリア自律に関しても様々な取り組みをされていることなど、特徴的な取り組みをされていますので、今回はそのあたりをぜひお聞きしたいと思います。まずは春闘についてですが、春闘っていう言葉を「闘う」ではなく「討議する」という字をあえて使われていますよね。これはどこかのタイミングで変更されたんですか。
- 日茂:
- よろしくお願いします。春討については2005年の春闘の時に字を変えるというような形で発信していますね。
- 田路:
- 現在の会社と組合の関係を考えると、目指す方向は一緒ですよね。そう考えると「闘う」という字は現状と比べてギャップがあるという話になり、そのタイミングで、討論を尽くして解決策を見つけていきましょうという考え方のもと、春闘の「闘」は討論の「討」に名称を変えたということです。
- 松本:
- 当時の組合員の皆さんからはどういう反応だったんですか?
- 日茂:
- 反発が起きた話は聞いたことないです。字を変更してから、より組合員の中で交渉の中身をもっと知りたいなといった声が増えたと聞いています。
- 松本:
- 以前に、春討の労使協議の中で、「労使のあるべき姿を共有して、この春討で成し遂げたいことを具現化していきたい」とお聞きしたことがありましたが、これはどういう意味合いでしょうか?
- 日茂:
- 今までの春討であれば、単純に賃上げや待遇改善などに注力していたと思いますが、そこだけではなく、よりこの会社で働きやすいようにしていくために、労使でしっかり議論する形にしていきたいなと。要求についても、この会社でみんなが頑張っていくために組合員が実現してほしいことは何なのか、会社はそれに対してどう答えるのかということを議論したいという想いでお話ししたことですね。
- 西村:
- 実際の春討の中で会社とはどういった話し合いをされているんですか。
- 日茂:
- 実は我々の労組としては、昔から一本筋の通った取り組みができていないので、考え方も含めてそこも一旦点検し直しているところです。ビジョンの策定も含め自分たちが何を実現したいのかを組織としてまず明確にしてから、それを会社と議論していきたいなというような段階になります。これからどんなことを実現していきたいのかを話していまして、その一つがキャリア自律の話ですね。
組合が組合員のキャリア自律を
支援するのはなぜか
- 松本:
- 僕らもキャリア自律を去年頃から意識してはいるものの、なかなか具体的な活動ができていないと感じています。組合の重点テーマとして取り組まれているのはかなり強い想いがあると思いますが、そこに至った背景はなんでしょう。
- 日茂:
- 社会の変化が一番大きいと思います。これまで、年功序列や終身雇用が一般的だった中で決まったキャリアで進めた時代が平成から令和にかけて変化し、今は組合員一人一人も会社に任せるのではなく、自分で考えていかなければならないと強く感じています。一方で、会社がキャリア自律の取り組みを行うと、「転職を勧めるのか」「プライベートのことまで言われたくない」といった声がどうしても出てしまうのかなと感じていまして、そういう意味では労働組合だからこそできる取り組みなのかなと。
- 田路:
- 皆さん一律の成長キャリアというものがなくなってきていますよね。特に、転職が当たり前になっている中で、自分のキャリアを会社の中でまとめる人の方がむしろ少なくなってきていて。組合として組合員の方の成長や幸せを追求していく中でも、やっぱり一人一人が思い描いたキャリアをその通り進めてもらわないといけなくなってきていると強く感じます。
- 日茂:
- 我々が掲げているキャリア自律とは、社内のキャリアではなく、その人の人生のキャリアをしっかり考えてくださいという意味を込めていますね。
- 松本:
- ワークキャリアだけじゃなくて、ライフキャリアまで考えましょうっていうことですよね。今までキャリア自律の取り組みとして具体的にやってこられたことは何がありますか。
- 田路:
- 大きく4つあり、「ネウボラ」というキャリアに関連する外部面談サービスの導入、社内の座談会、社内のマッチング、副業制度導入に取り組んでいます。
- 西村:
- 4つも取り組まれているのはすごいですね。
- 田路:
- もう少し具体的にお話ししますと。面談サービス「ネウボラ」では、社外のキャリアコンサルタントと面談ができるので、しがらみなくキャリアに関する話をする中で自分のことに気づくきっかけになればいいなという想いで導入しました。座談会については、弊社の多様なキャリアを持つ方々をテーマごとに紹介しています。社内マッチングは、我々が間に入って、組合員が興味のある部署の方にお話を聞くことで組合員とその部署を繋げるという役割を果たしています。最後の副業は、労使で現在話し合いを進めている段階です。
- 松本:
- 「ネウボラ」は利用される方は多いんですか。
- 日茂:
- 20人ぐらいですかね。職種もバラバラで偏りなく利用されています。
- 松本:
- 実際使われた方からの感想は伺っているんですか。
- 日茂:
- 我々には逆にわからないようにして相談をしやすいようにしています。
- 松本:
- 組合本部にもわからない形で相談できるのであれば、よりハードルが下がっていいですね。
- 田路:
- 御社はどうですか。キャリア支援系の制度で取り組まれているものはありますか。
- 松本:
- 会社として、毎年のコミュニケーション面談や、年齢に応じたキャリア研修といった基本的な仕組みはありますが、特徴的なものはないですね。本人のやりたいこと・できることと、会社としてやってもらいたいことをマッチングさせて、ではあなたのビジョンはこうですねってすり合わせをしていくことが、キャリア面談のあるべき姿だと思いますが、どこまでできているのかな、という課題意識はありますね。私の経験だけかもしれませんが、いまは希望を聞いて終わっていて、上司や会社からの期待が表明されていないと思うんですよね。とはいえ、管理職になったからといって急にできるものでもないので、組合員の段階から面談に対する認識を変えていければ、実際に上司になったときに意味があると考えているので、組合としては草の根でそこに取り組んでいきたいです。
- 田路:
- すごく共感できます。制度が変わっても、使用する側のマインドが変わらないと全く意味ないと思います。制度は変えようと思えば変えられますが、マインドを変えることは難しいと思っていて、その辺りをどういうふうにしていくかは日々悩んでいる部分ですね。マインドを変えるアプローチで何かされていることはありますか。
- 松本:
- いくつかあると思うんですけど、一つはセミナーを開催するという方法がわかりやすいかなと。そういう周りから些細でも変化の空気感を出す、外部環境は変わっていると感じてもらうっていうのがありますよね。あとは、自分で気づいてもらう方が変わりやすいと思うので、そういう意味でも地道で時間はかかりますが、アンケートなどを通して、「こうあるべき」当然の認識っていう部分を全員に対してアプローチしていきたいですね。
- 田路:
- インプットしようとすると、むしろ拒否反応を示されたりすることもありますよね。
- 西村:
- キャリアを考えるときに、会社側から「こういうキャリアを描け」と言われるよりも、第三者が入って違う視点から示される方が、納得感も生まれると思うので、上手くそういう仕組みを取り入れられたらいいなと思います。
- 田路:
- そうですよね。会社が言ったらちょっと構えちゃう部分もありますよね。だからこそ、組合ができる部分なのかもしれませんね。
- 松本:
- いま会社側としては組合のキャリア支援に関する取り組みについてはどういう反応をされていますか。
- 日茂:
- 反対という雰囲気ではないのかなと思います。むしろ、自分は何ができるんだろうっていうのをしっかり考えて、それを発信することを求めていると思うので、そういう意味ではマッチしていると思います。
- 田路:
- 自ら考えてもらうというところが重要ですね。当社も2024年から人事制度が新しくなります。まだ確定していないですが、目標管理ができて、上司と本人で相談して自分で目標を立てて取り組んだり、評価項目の一つにチャレンジ項目を設定して、挑戦する方を評価しますよっていう姿勢を人事としても見せていったりするようになります。御社では、人事制度の改定や挑戦っていう部分があったりするんですか。
- 西村:
- 今年の6月から「変化をする・挑戦する企業風土の醸成」、「働きがいのある企業風土の醸成」を目指すゴールとするということで、人事・労務本部が立ち上がり、ちょうど人事制度を見直そうという動きになっていますが、具体的な仕組みはこれからですね。
- 田路:
- なかなか難しいですよね。当然リスク管理もすごく大事ですが、そればかりだと前に進めないなと。当社も新しい事業がなかなか生まれていないんですよね。そこは会社としても危機感を持っている部分なので、だからこそ挑戦ということをよくメッセージとして発信しているのだと思っています。
労働組合が会社の中で果たす役割は
変わったのか
- 松本:
- 少し話が変わりますが、社会の変化や組合員の皆さんの考え方が変わってきた中で、労働組合は昔と比べて、会社の中での役割がだんだん変化している気がしています。そういう実感はありますか。あるいは、そういう姿勢でビジョンなどを作っていかなきゃと考えていらっしゃいますか。
- 日茂:
- 変化しているなって感じています。ただ、改めて労働組合として必要な機能というところで考えると、そこは変わっていないのかなと思います。具体的には、会社の考えをしっかりと組合員に伝えていく。そういう部分は、今の時代にもっと必要になってくるのかなと。あとは、どんな信念を持って活動していくのかっていうところ、どんな判断をしてどういった活動に繋げていくのかっていう部分を全員が共通の認識として持っておかなければいけないかなというところで、ビジョン策定に取り組んでいるところです。
- 松本:
- ちょうど取り組まれているところなんですね。どういう方向で考えていらっしゃいますか。
- 日茂:
- すごく簡単な表現ですが、みんな変わっていかなければならないというメッセージ性を出していきたいなと。キャリア自律の話や、これから導入していく制度も含めて、変化のための選択肢を増やすような活動しているという点を説明できればいいなと思っています。この不確実な時代を生きる中ではそれぞれでしっかり考えていくしかないのかなと。そういう意味で会社にとっても組合員にとっても何かしらのきっかけを与える存在になっていきたいなと思います。
- 田路:
- 私としては、組合員がどうありたいということから、会社と組合員あるいは不二製油に関わる全ての人に対象が変化しているなと思います。以前は、組合員が幸せになるために活動しますという側面があったと思いますが、それだけではない。労働組合は第2の経営者だとかってよく言われますけども、やはり同じ不二製油の人間として会社を引っ張っていくことは、立場や視点が違っていても目指しているベクトルは一緒だというというふうに考え方が変わってきているなと。
- 日茂:
- 逆に、日清製粉労組さんが変わったとお考えになるところがあればお伺いしたいです。
- 赤木:
- もともと労働組合としては権利を主張することや雇用を維持することを大きな目的にしていたと思うんです。でも今はそれが難しいなと思っていて、みんなが納得できないですよね。同じことをやって、嬉しい人もいれば、嫌な人もいるだろうし、多数派の論理では解決できないと思っています。そうしたときに、1人1人が楽しく生きている状態を作るための手助けをすることが役割なんだと思います。だからこそ、組合が「Well Being」って単語をいうようになっていると思いますし、私たちとしても「Well Being」っていうのを一つキーワードにしてみんなに浸透させようと思っています。
- 松本:
- 昔は、みんなが求めているのは一時金とベースアップであって、そこは変わらないですが、今は同じ原資で他のことができるかもしれないという考え方を持っている人もいると思う。そこが組合員の皆さんに対しての役割が昔と変わってきている部分なのかなって。
- 日茂:
- いかに選択肢を増やしていけるかが重要になってくると思います。だからこそ、個人個人しっかり考えを持ってほしいですし、その考えを教えてほしいですよね。
- 赤木:
- そうですよね。大変な時代になっていきますが、これからも、ともに頑張りましょう。本日はありがとうございました。
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