雪印メグミルク労働組合×日清製粉労働組合
「食の安全」について考える
「食の安全」が守られなかった際に
何が起きるのか
- 赤木:
- 本日はよろしくお願いいたします。また2000年に起きた事件・事故についてもお話しいただけるということで、大変ありがとうございます。雪印さんでの事故は日本全体で食の安全安心に対する考え方が大きく変化させるきっかけとなったように感じますが、もう24年前となると若い人だと記憶にない人もいますよね。
- 海上:
- 事件は20年以上前のことになりますので、従業員の入れ替えも進んでおり、実際にその当時を経験した人はかなり減っています。専従の執行部の中でも私しかいません。その中でどのように伝えていかなければいけないかは、組合も会社も考えるところです。当時、私はちょうど北海道のなかしべつ工場にいまして、その事件の一報が出る2ヶ月前には娘が生まれて、より一層頑張っていこうという思いを持って仕事をしていた矢先に報道がありました。それまで会社からの発信は全くなく、初めは半信半疑な部分もあったんですが、徐々に話が大きくなっていきました。一歩間違えれば一気に信頼が揺らいでしまうというのが、食品業界にはありますよね。当時、雪印といえば北海道の中ではかなりブランド力を持っていましたが、あの事件を経験したことによってその信頼が地に落ちるという状況を町の中で経験しました。工場内でもこれから会社はどうなっていくんだろうという話があちらこちらから聞こえてくる状況で、「自分が今作っているチーズは本当に売れるのか。」「お客様のもとに届くのか」という不安を抱えながら、生産をしなきゃいけないという使命もあり、生産を続けていた記憶があります。
- 赤木:
- 報道がどんどん過熱していったことは記憶に残っています。現場で働いている人たちからすると気が気ではないですよね。事件後の会社はどうなっていったんですか?
- 海上:
- 事件そのものが大きく報道され、全容がわかっていく中で、会社からは人員整理といいますか、解雇に近いような形の希望退職制度の提案も出てきて、仲間がどんどん退職していく状況も目の当たりにしました。2000年の脱脂粉乳に続いて、2002年の食肉の事件もありました。そこも合わせますと数年の間に2000人の仲間が会社を去っていき、非常につらい思いをした記憶が残っています。さらに、会社も厳しい状況でしたので、定期昇給の停止や一時金の大幅減額、福利厚生制度の縮小など様々な部分で生活にも影響が出る事態になりました。組合としてもこれらの会社提案を受けざるを得ない状況だったと聞いています。当時は私も正直、退職を考えました。ただ、「この会社が好きで入ったので何とか続けていこう」という想いや「家族も支えていかなきゃならない」といういろんな想いや考えがまとまらない中で過ごしていましたね。
- 松尾:
- それだけの数の仲間が退職してしまったんですね。今回、食の安全安心は私たちの雇用にも直結しているんだということを改めて痛感しました。このことが起こってしまった原因は何だったんでしょうか。
- 海上:
- 当時よく報道された部分でもありますが、会社に「上司の言うことは当たり前」であり、「従わなきゃならない」という風土があったことだと感じています。私自身も自分が少し変だと思っても、上司や先輩の言うことに従っていれば大丈夫と作業していた部分がありました。そういった風土が、大きなミスや偽装を止められなかったのだと思います。
労働組合として「言える」環境を作っていく
- 赤木:
- 日清製粉グループでは、幸い大きな報道になるようなことは、私が知っている限りではありませんが、どのメーカーにもあるように製品回収などの話はやっぱりあります。現状が当たり前だと思わず、常に疑問を持ちながら仕事に携わらないといけないですよね。ここまでお話を聞いてきて労働組合としてもそれを伝えていく必要があると感じました。この事件が起きたことで、会社はその後どのように変わってきたんでしょうか。
- 海上:
- 会社としてもおかしいと思ったら聞いてみるという風土醸成の取り組みをしてきて、言いやすい雰囲気にはなってきたと思います。ただ、現在どこの職場でもそういう雰囲気かと言われると、まだまだかなというところもあります。そこについては、労働組合がしっかりと支部や組合員といろんなコミュニケーションツールを使い、どこの職場でどういう課題や問題があるのかヒアリングして会社にも伝えていきながら職場環境の改善を求めたりしています。
- 赤木:
- 今でこそ心理的安全性といったワードがメジャーになっていますが、組合としては何か対策をされていますか。
- 海上:
- 会社としても研修等を使いながら試みているとは聞いています。組合としても会社ではできないことをしようと考えて、先ほどお話ししたヒアリングのほかにも「労働相談窓口」というものを設置しています。なんでも相談窓口なので、内容も様々です。例えば、パワハラやいじめ、セクハラ関連の相談で、会社や上司に言えない内容がくることもありますし、品質に関連する部分の相談や、職場環境に関する問題があってどうしてもそこでは言えないからっていうようなことが連絡できるような窓口です。電話、メール、あとはフォームのQRコードを読み取ってメールが送信されるような、匿名で言いたい方もいらっしゃいますので、そういったツールを使いながら、なんでも言えるような、会社には言えないけど組合に聞いてほしいという窓口を作っています。内部通報制度に近いかもしれませんね。そこで何かこちらでも問題がある部分があれば、会社と協議をしています。
- 赤木:
- 相談される方は結構多いですか。
- 海上:
- そうですね。今も対応中の案件がいくつかあります。内容としては単純な問い合わせもありますが、ハラスメント系、特にパワハラやいじめのような相談もあります。支部の役員にも言えない、上司も相手にしてくれなかったから組合に相談するという感じです。会社も窓口を持っていますが、会社にも言い辛いという方については組合の方に相談がくることが多いです。その事実は組合と会社で話をしながら調査をして、事実確認と、それがハラスメントに該当するか否か、どういう環境下で行われたのかを精査しています。組合独自で対応することも、会社と一緒になって対応することもあります。案件によって様々ですけど、加害者が経営陣であれば当然会社に調査してもらえないか話しますし、組合員同士のケースもあったりするので、そういったときには事実関係を精査しながら対応しています。
- 赤木:
- 我々も月2回Web上のバーチャルオフィスで相談を受ける「なんでも相談日」やメールで常時相談を受け付けている「なんでも相談BOX」というものを設置していますが、件数としてはまだまだ少ないですね。
- 松尾:
- 労働組合の機能として会社経営に対してのチェックもあるかと思いますが、食品安全という観点でも取り組まれていることはありますか。
- 海上:
- まず支部では、フード連合の「食の安全・安心強化月間」の6~7月にあわせて年1回、職場で何か不安なことはないか、何か法律に触れそうなところがないか、職場で物が言えない環境になっていないか、経営陣の対応はどうかなどをヒアリングしてもらい、その結果を中央本部にも共有してもらっています。安全衛生に関しては安全衛生委員会がそれぞれの場所に設置されているので、その中に必ず組合役員を最低1名入れて、安全や衛生に関する協議に参加し報告をしてもらっています。中央本部では、安全の労使協議会や全体の協議会の中で会社への確認もしていますね。
- 松尾:
- 組合として安全に関するところもチェック機能が整っているんですね。日清製粉でも製品安全担当者はいますし、もちろん安全衛生委員会や製品安全委員会という会議もありますが、会社の中の会議になっていて労使関係の中で行われてはいないのが現状ですね。安全衛生委員会を毎月やっている中でも内容についは、人の安全にフォーカスされていることが多く、食の安全や衛生というところの話題は少ないように感じます。
- 海上:
- 私どもも日清製粉さんと近いところがあって、どうしても人の安全に寄っちゃいます。本来であれば安全と衛生ですから、衛生も当然ですけど、その衛生の部分はうちもまだ弱い部分の一つかなと。特に工場はどうしても機械を動かすので、不安全行動の状態、行動によって人を怪我させない、大事な人材を怪我させないという部分に特化した動きの方が多いかなと思っております。そこをいかにして衛生の部分もやっていくか、特に工場は難しいなと、課題として捉えています。
- 松尾:
- 職場や支部活動の中で安全に関する取り組みはどのようにされていますか。
- 菅原:
- そもそも会社も労組との関係性を知っている経営職があまり多くなくて、支部役員経験のある経営職だと、この話は労組を通さないと難しいとか、安全衛生委員会は会社と労組は半々ということを理解していますが、そういう経営職がいないところもあります。支部役員も毎年どんどん変わっていく中で、安全衛生委員って若手の登竜門みたいな感じで、職場の上司が若手に決めちゃうことがあったりするので、そこからまず正しい知識を与えていかないといけないと思っています。そのため毎年、支部役員の入れ替え後の年度初めに支部役員全員を集めた会議を実施し、本来組合として何をしなきゃいけないのかや、支部の機能、労組と会社の関係など、基本知識習得のための教育活動を毎年実施していま
事件を風化させないための情報発信
- 菅原:
- 食の安全に話を戻すと、事件について私たちの組織でも定例活動をこなしていて、取り組みの風化を感じる部分もあったので、原点に立ち返る意味でも、年4回発行している機関紙の中で事件を風化させないことにフォーカスを当てた記事を作り、契約社員も含めた皆がしっかりと当事者意識を持つための取り組みにしました。また、組合加入4年目の人を対象とした研修も実施しています。会社は品質保証チェックなどのハード面での取り組みをしているので、会社の取り組みと棲み分けをしながら、現在は年1回、全組合員の意識を事件に向けるためにこれまでに発行した機関誌を活用しながら6~7月に集中して取り組んでいます。
- 赤木:
- 記事を拝見しましたが、実体験した人の言葉ってやっぱり重みがありますよね。
- 菅原:
- 事件を経験している組合員がだんだん減ってきているからこそ、今いる経験をした組合員の皆さんに協力をいただいて、当時その人がどこにいたのか、部署や地域によって考えが違ったりしますので、赤裸々な思いを書いていただくようお願いし5回にわたって機関誌に掲載しました。
- 赤木:
- 反響はどうですか。
- 菅原:
- 様々なお声が届いています。もちろん知っている顔の方が記事になっていたと声をかけてくれることもあれば、しっかりと読んで感銘しましたってメールくれる方とか。記事には、脅迫を受けたとか結構ハードな内容を書いているところもあったりしますが、いろんな立場、環境にいる人たちが見てもどこかに刺さる、「ジブンゴト」として捉えられるようなまとめにはなっているかなと。
- 松尾:
- 会社のこういったトラブルや問題に対して、組合から組合員に周知する、意識を変えていくっていうのがあまりできてなくて、組合でまとめて発信するのはいいなってすごく思いました。先ほど当事者意識っていう話がありましたけど、私も製品安全の仕事をしている中で問題意識、危機意識、当事者意識の三つを意識していて、それを教育として職場に話してはいるんですけど、そういったところも組合の目線と立場でやっていけるといいのかなって。今、独自に作られたという資料を拝見して、大変勉強になりました。
- 海上:
- 結局、末端の組合員までやっていることを伝えられなかったら、組合は何やっているかわからないので、情報伝達をしっかりしなきゃいけないですよね。私たちは支部の代表者会議の中でも、自分たちの支部がどのぐらいのレベルで情報伝達ができているかみたいなことをグループワークで取り組んでもらっています。何が足りなくて、何を本部にフォローして欲しいのかみたいなことをディスカッションした時期があって、やれている支部の取り組みを真似してみるとか、いろんな事業所の情報をまとめて発信することによって、それぞれの支部で工夫をしながら、組合員への情報伝達のやり方を変えてもらう一助にしてもらう取り組みも行ないました。
- 松尾:
- 情報伝達って難しいけど、本当に大切ですよね。でも、組合から出す情報ってすごく難しい漢字がいっぱいあって、僕みたいな組合員からすると正直読もうって思わないんです…(笑)。最近は、全員に見てもらえるものにしたいという思いで、発信する情報をもっと見やすくわかりやすいように変えていく取り組みをしています。そうすると今まで見なかった人、興味なかった人が少しずつ良くも悪くも目を通してくれるようになってきました。「本部が勝手にやっている」「支部の上の人たちがやっているな」「自分はよくわかんないし関係ないよ」みたいな感じから少しずつ抜け出していきたいと思っています。まずは、僕が見てもわかる言葉にするところからですね(笑)。
- 赤木:
- ここまで色んなお話を聞いてきて、製品安全は会社の存続にも関わることだと改めて感じました。今まで仕事と組合でちょっと切り離して考えてしまっていましたが、組合としてやらないといけないこと、できることがあるんだという部分も少し見えてきたので、これから私たちも取り組んでいきたいと思います。本日はありがとうございました。