IUF-JCC 海外労働学校
- 2023.05.10
第44回IUF-JCC海外労働学校に本部より松本書記長が参加しましたので、報告します。
<海外労働学校とは>
日清製粉労働組合の上部団体であるフード連合や、最大の産別組織UAゼンセンなどが加入している国際労働機関IUF-JCC(国際食品労連 日本加盟労組連絡評議会)が主催する研修です。
①国際労働運動や国際連帯の意義、②多国籍企業の社会的責任と労働組合の役割、③訪問国の文化や社会 などを学ぶことを目的に実施されています。
<IUFの活動について―①「会社との対話」>
IUFは、本部をジュネーブに置く、農業、食肉、乳業、水産、食品加工、ホテル・レストラン・ツーリズム等の産業の労働組合組織を一つにまとめる国際的産業別労働組合です。IUFの活動能力は、そこに加盟する労働組合の力にかかっています。セクターに分かれて活動しており、横断的な問題に対してどのように解決していくか、戦略を立ててキャンペーンや対話を行っています。
2017年に立ち上がった比較的新しい部門である食品加工部門では、2017年の設立総会の際、8つのマニフェストを定めています(ひとくちに「食品加工」といっても、いっさいの加工がされていない食品というものはほとんど存在しないことになってしまいますが、IUFではすでに独立して存在している「農業」「食肉」「乳業」「水産」を除くものを食品加工としてまとめています。スーパーマーケットの棚に並ぶ、消費者に直接届く加工食品全般のようなイメージを持てばよいのではないでしょうか)。
マニフェストの第一は、「経営から認知されること」。この「認知」というキーワードがIUFの活動において非常に重要視されているものと感じます。労働組合の活動能力は、「権利」に依存する部分が大きく(日本では当たり前のように保障されていますが)、「結社の自由」や、団結権、団体交渉権といった権利が認められているか否か、ということが労働組合及び労働者の力につながっているのだ、との話があり、改めてその権利の重要性を認識しました。その上で、さらに個別の企業に対して、「労働組合が話し合いをできる(あるいは、その意味がある)相手である」という認識を持たれることが、「認知される」という言葉には含まれているようです。IUFにおける「認知」は、交渉の相手となる多国籍企業に対して、一つの国単位ではなく、国際的なレベルで交渉をすることができる状況にある(その権利を得ている)、という状況を指しています。さらに具体的に言えば、会社側の代表と、IUFの代表がいつでも必要に応じて話をすることができる、ということでもあります。
IUF食品加工部門では、たとえばユニ・リーバやダノン、ネスレ、モンデレーズ、カーギルといった企業とのネットワークを築いてきました。認知を得るために必要なことは、全世界の組合の力を結集することで、多国籍企業のヘッドクォーターに対し、現地経営よりも正確な情報を伝えることにあります。これは簡単ではなく、非常に努力を要することですが、こういった努力を継続することによって、企業側にもIUFという存在に対する理解が進み、「IUFから得る情報から問題を解決することがよりよい結果を生む」という認識を得ることができます。そのことが継続的で質の高いプラットフォームを労働者と経営者の間に構築することになり、より大きな成果につながっていくのです。
IUFでの具体例として、コカ・コーラとの対話があります。IUFのコカ・コーラとの歴史は、1980年代にIUFグアテマラの加盟労組がコカ・コーラと問題があったことに端を発しています。会社も問題を起こすのではなく、話し合いを継続的に行うことが大事だということを認識し、IUFとコカ・コーラが対話を行い、2005年に共同声明を出すことになりました。この共同声明によって、コカ・コーラと年に2回協議を持つことができる、というプラットフォームを構築し、継続的な協議が行われています。
このことは、国際的産別組織の話にとどまらず、私たちの企業別組合活動にも大きな示唆を与えてくれます。日常を本社ビルで過ごし、限られた社員とのみ直接接している経営陣は、各事業部門、事業所の状況については該当する部門の長からの報告によって状況を把握することができます。それに対し、私たち労働組合がより正確な情報、現場の声を伝え、的確な提言を行うことができれば、会社経営と労働組合とのより前向きで建設的な関係に繋がっていくということを改めて確信を持つことができました。つまり、私たちとの対話が、まだ起こっていないリスクを大きなものとなる前に防ぐ、無料の監査・アドバイス機能を持っているということを経営に理解してもらうことが必要であり、そのためには我々自身の活動が正確で幅広い情報に基づいたものであることが求められていると言えます。
<IUFの活動について―②「多様性と平等」>
もう一つ、国際的な活動として大きなものに「平等」に関するものがあります。国際社会全体として女性は無給の仕事(家事・育児)を担当し、男性が指し示す方向性に従って生きている傾向にあります。ジェンダー賃金ギャップは、男性と女性の間で約20%あると言われていますが、日本では22.5%であり、わが国においてもこのことは同様か、むしろより悪い結果となっています。女性は不安定な雇用にある状況が多く、コロナ禍によって家で子供の面倒を見ざるをえない状況となったことによって、安定雇用の男性ではなく、不安定な雇用にある女性が仕事を辞めざるを得ないこととなっている例も多いそうです。
IUFの産業には、特に女性にとって不平等が大きい産業も多くあります。一つには、ビールや乳業など女性が労働者としてほとんど参加していない産業であり、もう一つは接客業など女性が多数働いている産業です。
前者では、なぜ女性がそういった仕事につこうとしないのか考えなければなりません。ジェンダーマッピングというものがあり、これを作ることで、問題のスナップ写真を撮るように、職場の中での不均等、女性が弱い点が可視化されます。女性がついている業務はどのようなものがあるか、女性はどういったことで残業を受け入れているか。女性は子供を迎えに行かなければいけないなど、時間が限られることもありますが、そのデータをもとにすることで、会社との対話ができます。無意識のうちに、女性だから、ということで自信がないように育てられていることがありますが、そのことを男女ともに自覚しなければなりません。例えば、女性特有のこととして月経(生理)があります。一定の年齢の女性であれば、誰しもが概ね毎月に一度経験し続けるものですが、そのことを口にするのはタブーであるかのように扱われています。まさに無意識のうちにそのように育てられてきた、ということで、ほとんどの人はそのことに疑問を持っていないか、諦めているのではないでしょうか。生理用品の広告を例にしても、本来は赤い色であるはずのものが青い色で表現されています。生理によって出血していることが女性にとって恥ずかしいものだという前提が、このような表現に結びついているのではないでしょうか。こういったことは教育によって起きていることであり、このようなタブーを破っていくことが女性の不平等撤廃に必要なこととなります。
また、安全衛生の視点でも、男性が作り上げてきた職場では、女性の視点は反映されていないことがほとんどです。例えば作業服や防護服のサイズが大きすぎることであったり、道具の重さ、作業場所の高さなどによって、女性にとっては危険が増す職場となってしまっているケースがあります。
もう一つ、女性が多い職場でも、ハラスメントの問題があります。接客業の現場では、上司、同僚などだけではなく、顧客からハラスメントを受けることもあります。こういったハラスメントを職場から排除していくことが必要です。顧客のハラスメントに対しては、企業として毅然とした対応を取ることが求められますが、IUFの活動成果の一例として、スペインのホテルでは、協約の中に顧客が職員にセクハラをした場合はホテルから追放するという文言が入るようになりました。IUFの部門の一つであるホテル部門での大きな戦いは、このハラスメント追放となっています。企業単位ではなく、業界として考えていかなければならない問題で、職場での安全衛生の向上につながる重要な取り組みと言えます。
<オランダ・モデルとソーシャル・ダイアローグ>
オランダと日本の労働組合構造には下記のように、大きな違いがあります。
①日本の組合は企業別に労働組合が組織され、オランダでは、職種もしくは業種ごとに組織化されている
②失業者や退職者、パートタイマーやフレキシブル・ワーカーも組織されている
③公務員(公共部門に勤めている人たち)も民間部門の人たちと同じ権利、つまり団体交渉やストライキ権が認められています。
また、オランダの労働組合は、賃金や雇用問題全般のほかに社会の現状にも目を向け、責任を果たそうとしていました。たとえば、オランダはアメリカに次ぐ農業輸出大国で、特に酪農や畜産が盛んな国です。その一方、サステナビリティの観点で言えば、牛から排出される窒素の量も世界有数であり、温暖化の一因ともなっています。また世界の農業大国の座を守るためには、それだけの労働力も必要である一方、オランダでは人口減と高齢化が進み、労働力は東欧などからの移民に頼る現実もあります。そういったことから、オランダの労働組合としてはこの農業大国の座に固執すべきでないこと、また海外に生産を移転するとしても、移転先の国で雇用される人たちが生活の最低限を保障されることや、移転先での環境破壊につながらないよう、多国籍企業に対する監視を行っています。
オランダ社会の特徴的な政策として、「ソーシャル・ダイアローグ(社会的対話)」があります。これは、政府、経営者、労働者の三者の代表により、協議を行って主要な社会経済問題を解決していこうとする姿勢です。「政」「労」「使」の徹底的な対話により、社会環境は良くなるという信念のもとに実施されているのですが、その場としてあるのがSER(社会経済審議会)です。これは、政府に対する諮問機関で、社会・経済問題全般に関して論議をし、そこで出された結論を政府は無視できないこととなっています。主要な社会経済問題はすべてここで論議され、政府に1つの結論として提出されます。もう1つのソーシャル・ダイアローグの柱がSTAR(労働財団)で、国レベルで労使が議論し合う非公式な場となっています。
オランダと日本には国としての成り立ちの違いもあり、オランダモデルも必ずしも成功事例ばかりではありません。しかし、共通して学びを得られるとすれば、それは「事実に基づいた徹底的な話し合い」であり、労働組合を通して、経営者が「裸の王様」にならず、現場の実態を知ることがよりよい会社づくりに繋がっていくということであると思います。
以 上
- 1