IUF-JCC 海外労働学校
- 2024.07.24
第45回IUF-JCC海外労働学校に本部より島津書記長が参加しましたので、報告します。
<海外労働学校とは>
日清製粉労働組合の上部団体であるフード連合や、最大の産別組織UAゼンセンなどが加入している国際労働機関IUF-JCC(国際食品労連 日本加盟労組連絡評議会)が主催する研修です。
①国際労働運動や国際連帯の意義、②多国籍企業の社会的責任と労働組合の役割、③訪問国の文化や社会 などを学ぶことを目的に実施されています。
ここでは今回の研修の中でもテーマを絞り、IUFの活動について記載します。
<①IUFの特徴>
IUFは「相互援助を通じ、世界の食品関連労働者の経済的、社会的な権利を守り、地位を向上させ、世界の自由と平和に貢献する」を活動方針としています。講義の内容を聞いたうえで特徴的と感じた内容は「世界の自由と平和」という点でした。
日本の労働組合においては産業視点で社会的問題に取り組むことはあれど、そこまでの視野の広さと視座の高さで活動に取り組むことは多くはないでしょう。IUFは国際的組織であるが故、当然なのかもしれませんが、その他、日本と海外の労働組合の大きな違いである「企業内労働組合」と「産別労働組合」という体制の違いも大きく影響を与えているものと考えています。
<②IUFの特徴的な活動内容>
IUFは前述の通り、「相互援助」を通じ世界の食品関連労働者の経済的、社会的な権利を守り、地位を向上させ、「世界の自由と平和」に貢献するための組織です。以下には、より詳細に「相互援助」の実現に向けた関係構築の活動内容、「世界の自由」の実現に対する均等に対する考え、「世界の平和」視点で持続可能性の3点に分けて説明します。
②ー1 相互援助の関係構築
IUFは食品関連産業として、いわゆるB2Bの原料メーカー、B2Cの加工メーカーはもちろん、その川下にあるレストラン、ホテル、ツーリズム、またタバコ産業までを広くカバーすることで相互援助の体制を整えています。また、各業種に対し特に多国籍企業を中心とした組合活動を展開することで、相互援助を体現しているといえます。多国籍企業はその名の通り、世界各国に自社工場や流通拠点を持ち、国連の定義においては「2ないしそれ以上の国で資産を支配する企業」と定義され、労使関係も支配的なために多くの労使課題を抱えており、労働組合として課題解決に導くことは、その国のスタンダードを作ることになる他、世界に向けたアピールとしても有効な方法になり得ます。以下に、講義の中で紹介のあった活動事例を抜粋して記載します。
■コカ・コーラ(飲料)
アメリカのアトランタに本社を構え、全世界に70万人の従業員(各国のボトラーを含む)を有する代表的な多国籍企業。同社では、グアテマラにて組合員の不当な解雇など会社による支配的で人権を無視した行動により労働者は危機的状況に陥っていた。アメリカは世界恐慌など歴史的背景もあり、経済の安定化を目的に労働組合の活動を制限する法律の制定や裁判所の判決事例が存在し、反労働組合思想が強い(月刊全労連2023.8引用)。これに対しIUFは現地での様々な活動を経て2005年にコカ・コーラと共同声明を発表し定期的な意見交換の機会を創出、国ごとの労働課題の議論や全社的なハラスメントなどの労働課題について協議を行い、その内容を発信することでアメリカにおける反労組思想に対抗する革新的で模範的な取り組みを世界に対し示してきた。
■ラクタリス(乳業)
フランスにある乳業世界最大手の企業。51各国に関連会社を有し、従業員数は8万5000人。ベニエ家による一族経営の会社で会社利益を独占する傾向が強く、コカ・コーラとは背景が異なるが、反労働組合思想が強い。特にラクタリスは株主を有する多国籍企業と比較して一族経営であるがゆえに組合の組織化や外部からの介入が難しく、莫大な利益を生み出すものの、組合員に対する還元性が乏しく課題の多い企業である。IUFはこうした直接的な介入が難しい状況においても、相互援助においてサプライチェーンからの働きかけや政治的介入を手段として有し、これら手段をもって課題解決と労働組合の組織化を進め、より強固で広範な相互援助の体制の実現を目指し活動をしている。
②-2 均等に対する考え
IUFは世界の自由の実現の一つの方法として、均等に対する考えや行動も重要視しています。この均等に対する基本的な考えは、労働者に与えられた結社の自由と団体交渉の権利によるもので、IUFにおける包括的活動の象徴と言えます。講義では「均等」の対象を女性活躍としていたが、広義において賃金格差対策、児童労働の撤廃も含むと考えられます。以下に講義の中で紹介のあった活動事例を記載します。
■女性活躍
IUF女性会議とIUF総会で採択され、2023-2027年のアクションプログラムを実行中。5つの活動があり、①女性と組合の影響力を高める、②女性の雇用を守る、③安全衛生における女性視点の強化、④ジェンダーハラスメントの撲滅、⑤職場環境の整備である。
特筆すべき活動として③安全衛生における女性視点の強化を上げる。職場の安全衛生について、生産工場などは職場環境のコンディション(温度、湿度、照明、騒音など)また、機器の運転における安全操業における課題は分かりやすいが、女性特有の体のコンディションに配慮した議論を単組で積極的になされてはおらず、一方で話を聞くと当たり前に議論すべき内容であると感じた。IUFの活動方針において、まずは知ることが均等の考えを実現するにおいて大切、さらに違いを理解したうえで均等を考えるとのコメントがあったが、その通りである。
■児童労働(タバコ)
日本のみならず、世界的に健康の観点で喫煙を制限する動きはあるものの、「ニコチン」という成分においては、医療分野での利用や食品加工でも使用され、また、たばこ産業は武器産業に次ぐ高利益産業となるため、たばこ畑の生産性は将来に亘り成長分野になり得ると考えられている。一方で、その生産性を確保するための労働力は減少傾向にあり低賃金労働、強制労働、児童労働が頻発していることも事実である。もともとたばこ産業は特に、紙巻きたばこの生産が盛んな時期と産業の近代化に伴う生産性の効率化が相まって教育が進むとともに組織的に自分達の労働環境を考える風土を持っていた。実際にIUF設立のきっかけはたばこ産業に端を発する。しかし、現在は上記のように労働者の権利は守られているとは言えない。産業の発展は利益を生み出し、経済の豊かさを育む一方で、産業の発展を担う労働力(人口)は減少していく未来に対し、どのように生産性を保つか。強制労働などを禁止するにしても、機械化に頼る、生産集約などによる効率化は人口減少に対する対策として有効であるが、労働機会を奪うこととなり、生活のための賃金を得る機会が限定的になってしまい均等とは言えない。世界の視点において、労働に関する均等の課題は永遠の課題であり、つねに議論すべき重要課題である。
②-3 持続可能性
IUFでは5年に1度、世界総会を開催しています。直近では2023年6月に開催されており、前回総会の議題は人権問題、女性・青年活動、ミャンマー・ウクライナ支援、気候変動と組合の対応、加盟費など(フード連合HP引用)でありましたが、次回総会は中でも気候変動に対する労働組合の活動の議論は重要テーマになると考えられています。特に食品産業においてはいわゆる1次産業(農業、漁場、林業)の上に各産業が成り立っていますが、気候変動により1次産業が崩壊する可能性は否定できず、これを見過ごすことは食品関連産業の崩壊、世界の自由と平和の意に反します。よってSDGsに代表される持続可能性に貢献する活動が重要となります。以下に講義の中で紹介のあった持続可能性に関連した内容を記載します。
■JBS(精肉)
世界経済の発展、豊かさの向上とともに精肉の消費は増加する傾向にあるが、精肉産業はCO2排出負荷が大きく、気候変動を考え、実現するにおいて変化が求められる産業の一つである。また、CO2排出の観点においては、温暖化が特に取り上げられるが、日頃の職場環境の視点においても、職場の作業環境の高温化による安全衛生の危機や、女性、特に更年期を迎えた女性の体温管理に与える影響など、身近な労働課題にも直結する。故に、一見すると労働組合の活動とは関わりが薄く見える気候変動、持続可能性であるが、その重要性は高い。これについても、他の重点活動と同様にその活動の有効性、発展性の視点で多国籍企業へ働きかけを重要視している。JBSはブラジルに本拠を構え世界最大の畜肉の生産性を有する多国籍企業だが、同社は「グリーンウォッシュ」と呼ばれる、対外的には環境に配慮した活動を展開していると見せかけ、実際は有効的な対策をとることなく、自社の利益のみを追求している。こうした企業を組織の力で変えるべくIUFの重点活動の一つとなっている。
<まとめ>
日本の労働組合もIUFも、労働者の権利を守るという共通の目標を持っていると感じます。しかし、その活動の範囲や視点、手法には大きな違いがあり、両者は補完的な役割を果たすことができると思います。目の前で自分が良ければよい、ということではなく、対話を通じて会社、そして社会を良くしていこうと一人一人が思い、行動していくことが必要と感じます。
以 上
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